レンズの性能
ENGとレンズ
初期のTVカメラの撮像管には、もっと大きなものもあったようだが、とりあえず1インチの場合で話を始める。
1インチ撮像管の頃は4:3の撮像面なので、画面の対角線が1インチ(約25mm)なので、縦は15mm横20mmと計算しやすくなる。
初期のTVレンズはスチール35mm用レンズを流用していたので、全体の約58%にあたる中心部分しか使っていない、
つまり吟醸酒並みの精米がしてあるので、解像力的には有利だった。
カメラの性能が上がってくると、2/3インチの撮像管が使われ16mmフィルムカメラ用レンズとほぼ同じイメージサークルを持つレンズが使われる。
HDカメラには2/3インチCCDカメラしかない。 HDカメラ用のレンズはSD用のレンズと比べて高価となっているが、本当に高価なレンズが必要なのか検証して見よう。
2/3インチを直径とする円に内接する四角形を作る場合、縦横比が3:4の場合に比べ9:16にすると横幅が約9%長くなる。
HDレンズは、この部分の収差の改善が必要になるので、鉛レンズを坩堝から取り出した場合に、出来るだけ中心部分に近い良いところ使うことになり、それだけで高価になる。
たとえば、良い将棋盤は日向榧のまさ目を使い使うので、1本の木から数面しか取れないのと同じで、高価なものは数百万円の価格がつくのと良く似ている。
しかし、実際の運用上本当に高価なレンズが必要なのだろうか。
フルHDになっても、左上隅には時刻表示がスーパーされ、右上隅にはサイドスーパーがかかり、下端にはコメントスーパーがかかることが多いので、
もっとも収差が現れる部分が隠れてしまう。
また、カメラの性能も上がり、色収差が電気的に改善されたり、
絞り込んでも収差の改善されない樽型や糸巻き型のディストーションもデジタル処理で改善される時代になってきた。
HDTVはなぜ16:9の横長サイズになったかの理由の一つに、「映画シネマスコープが放送しやすいように」というのがあったようだ。
映画のスタンダード・サイズ1.375:1でシネマスコープ 2.35:1とすると、HDは1.78:1 (16:9)になるようだ。
ただし、シネマスコープのフィルム面のサイズは、スタンダード・サイズと同じであると言うこと。
シネマスコープはシネスコ用レンズで縦長で撮って、映写する際に横長にしている。
つまりEDTVと同じようにスクイーズで収録し、テレビ受信機でストレッチするのと同じである。
ただEDTVの場合は、電気的に縦長に収録しているので、レンズ的には4:3と同じものを使用する。
HDTVの場合は、CDDそのものが16:9になっているので、画面の使用効率は良くない。
70mmテクニカラーパナビジョンは、TVでいうとスーパーハイビジョンというところか。
スーパーハイビジョンは、初期には2.5インチCCDを使っていたようだが、その後はHDの4枚分と言っているので、ほぼ35mmスチールカメラと同じ程度と見ていいだろう。
NASAが、アポロ計画にハッセルブラッド用70mmフィルムマガジンを使ったのは知ってるし、70mmのマガジンは持っているが、
70mmフィルムは入手が難しく現像もたいへんなので、私は使った事がない。
これ用のレンズは、基本的にはスチールのセミ判(6x4.5)から6x6判のイメージサークルを持っているのだろうが、シネマスコープ用になので若干変わっているかも知れない。
70mm映画は、一般的には撮影後に35mmに縮小プリントされ配給されたようだ。
ニュースの場合、晴天昼間の絞りはF16付近にあり、球面収差、コマ収差、非点収差、像面湾曲はかなり改善される。
もちろん、絞り込むことによる回折現象のために画像が低下する部分もあり、被写界深度が深くなるメリットが大きい場合がほとんど。
夜間の場合は、+30dB程度の感度アップも可能になってきており、こうなるとレンズの収差より画像の荒れのほうが目立つことになる。
高いレンズを買うに越したことはないが、費用対効果が充分考える必要がある。
良いHDレンズをつくる手っ取り早い方法は、一回りイメージサークルを大きいレンズを使う、例えば1インチ用のレンズを使うこと。
ただし、単純にこの方法を取るとハンディ用としては、大きくて重いレンズとなってしまうのとワイド側の焦点距離がやや長くなってしまう。
一般的に、高いHDレンズと廉価版のHDレンズを比較すると、廉価版のほうが10%弱重量が軽く、20%弱価格が安くなっているようだ。
高いレンズは、外装などが丈夫にできていて耐久性や操作性が優れていることが多いが、あまり頑丈に作りすぎると、ぶつけたり落したりした場合、
レンズが壊れないため、カメラ側のCCDブロックにまでにダメージがおよび光軸が曲がってしまうこともあり、加減がむずかしい。
光軸が曲がった場合は、カメラは全損になることが多く、それならレンズが壊れたほうが良かったのに、ということになるので、壊れることも大事な場合もある。
スチールの場合では良く、「ボケ味」が問題になることもあるが、「ボケ味」が良いレンズほど解像力的には良くない場合も多い。
技術的な比較をする場合、高性能のCRTモニターで重箱の隅をつつくように画像を比較することはもちろんあるが、家庭にそのまま届くわけではなく、
一般的なテレビでどんなに写っているかを考えることも大事だ。
映画用HDカメラは、35mmフィルムにプリントすることを目的にしているので画素数などもTVの放送波用よりも高いレベルを目指している。
最近のドキュメンタリーでは、被写体に圧迫感を与えないため敢て1/3インチHDVカメラを使うこともある。
キー局での取材は、限られた場所で限られた時間や条件でしか撮影できないことが多いようだが、このような場合、各社で機材の差が出ることはある。
キー局の取材は通常、カメラ、記者、VE、レポーターなどの4人程度のクルーなので、機材の多少の重さはあまり問題にならないようだ。
東京で、カメラにIDXのバッテリーを2個つけたクルーを見たことがあるが、広島では見たことがない。
キー局では、ニュース用としては最高の機材が整えられてはいるが、取材する中身を見ると、国会で会議の前の数分間を手持ちで振り回す取材だったり、
番組でフェルメールの名画の取材をしていても、何故か静止している映像よりもパン・ズームのカットばかりと言うこともあったりする。
一方、ローカルではアシスタントも居なくて、しかも記者兼務という事も珍しくない局もあるが、こういう局ではカメラの軽量化が最優先で、
画質は2の次で、しかも取材内容が他局とカブる事も少なく、単純に画質を比較をされる事もあまりない。
ローカル局ならではの、キー局に負けない田舎の綺麗な映像を撮ることだってあるのです。
取材環境にあった機材を選ぶことが大切です。 HDカムは140Mbpsで、DVCは100MbpsだからHDカムのほうが優れている、という話しがありますが本当にそうでしょうか。
AVCイントラは50Mbps、XDカムは50Mbps、HDVは25Mなどと言われていますが、どれだけの差があるのでしょう。
地上波デジタルの放送波は、20Mbpsが精一杯とも言われています。しかも放送以前にもIP伝送、ノンリニア編集、
サーバー転送などでビットレートが落ちている場合もあります。
転送レートが高すぎると、重過ぎて送りにくい場合もあります。
マラソン中継をHDにして高画質にして、移動中継車に耐震カメラも備えているのに、走っているランナーの動きが激しくバックの映像も常に動いているため
、画面の何処でも映像の書き換えが間に合わず、アナログのほうがましだったということもあります。
HDは圧縮技術が不可欠なため、静止画で映像比較だけではなく動きの激しい映像の比較もしておかないといけません。
初期のエンコーダーでは、野球のボールやサッカーのボールが消えた?ということありましたが、今ではそれほど極端な例はないにしても、
撮影対象によっても機材を選ぶ必要はあります。
レンズの収差
全く収差のないレンズを理想レンズといい、現実にはありえず、以下の収差が存在します。
大きく分けて、サイデルの5収差と色収差があります。
サイデルの5収差(単色光の場合)
球面収差:レンズの中央部分と周辺部で屈折率が異なり、特に周辺部でピントが甘くなる。これを補正するために周辺部分の屈折率を下げた非球面レンズが開発されたが、 絞りを絞れば、周辺部分を光が通らなくなるので、球面収差は改善される反面、非球面レンズの効果もなくなります。
コマ収差:光軸外の斜めから入った点光源が、点ではなくハレー彗星ほどではないが尾を引いて結像する。光軸外光線による球面収差ともいえる。
非点収差:光軸から外れた点の像が点にならず、垂直な2本の線に分離する現象。光軸外の光が、縦面と横面で屈折率が異なりるためにおこる。
像面湾曲:理想レンズでは平面に結像するが、実際には、おわん型に湾曲した結像面に焦点する。 1960年代に売られていたプラスチックレンズ付のフジペットでは、この収差対策のため、フィルムが上下方法に湾曲してセットされていた。
ディスト−ション:ワイドレンズで良く見られる、たる型や糸巻き型の歪がこれである。
たる型歪みが出た場合
色収差(白色の場合)
サイデルの5収差は、光に色の成分がない場合を考えての問題ですが、現実の光(可視光線)には7色あり、他に紫外、赤外も存在する。
横から見たレンズをを、中央部分から、周辺部までを何ヶ所かで横に切ってみると、中央はほとんど分厚いガラスに過ぎないが、周辺部分は、
三角プリズムのように見える。つまりこの部分で光の分岐スペクトルによって7色に分解され拡散する。これが色収差である。
縦に分散するものを軸上色収差、横成分を倍率色収差というが、これを補正することを色消し(Apochromat)といい、
アポと名のついているレンズは特に色収差の補正を考えられたレンズと思って良い。これの補正は、屈折率の違う凸凹のレンズを組み合わせて行うが、
軸上色収差、倍率色収差をともに補正するには最低3枚のレンズが必要である。
※虹の七色
光を三角プリズムに通すと、いわゆる虹の七色に別れかれます。波長の長いほうから赤・橙・黄・緑・青・藍・紫となり、
この両側に目に見えない赤外(IR)紫外(UV)があります。可視光線の波長はおよそ400nm〜700nm(nは1/1000,000,000)ですが、通常、紫外線は撮影画像の有害なので、
UVフィルターを使用してカットします。この場合、400nm以下をカットするものをL40、370nm以下ならL37と通常表示してあります。
赤外線は山岳写真は夜間などの特殊撮影に有効で、コニカの赤外線フィルムは750nmの光に感光します。しかし、可視光線
に感光するのを抑えるため、通常はR60(600nm以下の光をカット)などの赤いフィルターを使用して撮影します。但し、カラー赤外の場合は、ある程度可視光線も撮影するのでY3(500nm以下の光をカット)などの濃い黄色のフィルター使用します。
レンズは光を通す反面、いくらかは表面で反射をします。 これを抑えるのがコーティング技術で、戦前のレンズには、これありませんでしたので、特に逆光での撮影ではひどい写りになり、 「逆光で撮影してはいけない」と言われる原因のひとつでした。レンズの表面がいくらか紫がかって見えるのがこれで、あまり強くレンズ表面をこすると、 コーティングが剥げるので注意が必要です。ミノルタのロッコールレンズのコーティングは緑で大変綺麗なものでした。
被写界深度
レンズには、絞りや焦点距離によってピントのあう範囲が広がったり狭まったりする性質がある。
絞りを絞るほど、焦点距離が短いほど被写界深度は深い。
一眼レフカメラ用レンズなどでは、レンズの銅鏡のピントリングなどに、被写界深度を表す表示がある。
2/3インチENGカメラ、35mm版カメラ、4x5カメラの標準レンズはそれぞれ、25mm、50mm、150mm程度であり、画角はほぼ同じであるが、被写界深度は焦点距離に規定される。
2/3インチENGカメラより4x5カメラのほうが圧倒的に被写界深度が浅くなり、人物にピントを合わせた場合などは、背景がボケて深みのあり味わいのある映像が撮れる。
50mm F1.4で撮影
50mm F11で撮影
ENGレンズの性能と価格
←N505iS(130万画素)で撮影したトベラの雪
メーカーによるレンズ性能の差はあるのでしょうか?性能の差は勿論ありませんが、性格の差はあります。それは好き嫌いの範囲に属する事なので、 なんとも言えませんが、一般的には、1つのメーカーのレンズに慣れてしまうと、どうしても排他的になり、 他のメーカーのレンズに手を出せなくなりやすいものです。特にアタッチメント等の互換性を考えると、 15倍程度の標準ズームでは、メーカーが入り混じると混乱し、操作ミスもおこりかねませんので、要注意ですが、望遠系や広角系のレンズなら、 メーカーが変わってもとくに違和感はありません。1社に偏らず、複数のメーカーのレンズを使っているほうが、 本来のレンズの性能比較が出来ると思います。
レンズの開発
コンピュータの発明される以前のレンズ開発は、その計算が大変で、1本開発するのに数年がかりで、算盤の得意な女子計算手数十人を1室に集めて、
一斉に計算させ、その上、最後に技師が長年の経験とカンで+αをつけたらしく、この+αをどうするかがレンズの良し悪しを決めたようです。
今はコンピュータで計算するので、数ヶ月で1本、開発費用も200万円程度ということです。