スチールカメラマンの為の動画入門

最近は、新聞社のカメラマンでもインターネット用などで、動画を撮るとこが珍しくなくなりました。
そこで、スチールカメラマンが初めて動画を撮る時に困惑しないための基礎知識を書いてみます。

撮影の実際

1、動画は写真と違います。
写真が1枚で済ませるところを最低4カットは撮る。
@ ロング
A ミディアム
B アップ(撮っているようでも撮っていない)
C インサート(これが重要)  たとえば、作業している手元のアップ、話をしているなら聞いている人、会議が夜遅くまでやっているなら時計のアップなど、場面展開に使えるカット。

撮影に入ったら次に何をとるか、一手先を考えるられると上手になります。
パンしないズームしない
 1カットは最低5秒(編集後)なので7〜10秒は撮る。
 縦長の掛け軸などで、どうしてもパンが必要な場合は、まずパン終わりを決めてその後に撮影をはじめ最初と最後に最低5秒以上の止めた映像を撮っておくこと。
ズームは特に、ズームアップで決めの像をまず確認してから撮影を始める、やはり最初と最後に最低5秒以上の止めた映像を撮っておくこと。
2、方向性を考える。
 特に会議やマラソンなど、右に向いている人が急に左を向いたりすると、不自然になります。
 会議場などでは、自分で中心線を右から撮るか左から撮るかを決めて一方側からだけから撮る。
3、光線を見る。
 スチールの場合は1カットだけなので、逆光で何とかなるのですが動画は数カット撮るので、逆光でマニュアルで撮るよりも、逆光にならない撮影位置を選ぶほうが利口です。
4、音に囚われすぎない。
 被写体がしゃべっていたり、会場に音楽が流れていたりすると、ついつい録画を止められなくなってパンやズームを繰り返しがちですが、このような場合はカメラを止めたつもりで次のカットを撮りましょう。
後で音を生かしながらの編集で活用できます。
7、アングルを考える
 カットが沢山必要なので、ハイアングル・ローアングルなどカメラの撮影角度を考えると映像に変化がでます。ヘリの空撮はハイアングルの典型です。

ロングは誰でも撮れますし、ミディアムも比較的簡単だと思いますが、初心者が取りにくいのがアップで、自分では寄っているつもりでも、以外にアップになっていないものです。
思い切ったアップは多ければ編集で減らせばよいのですが、無いものはどうにもなりません。

インサートは、有っても無くても良いもののようですが、刺身の妻のようなもので無いと変化がつきません。
たとえば、東京から広島に移動したのを表すには、原爆ドームのアップが1カットあれば済むようなもの。
夜になった事をあらわすなら月のアップやネオンの光。
時代劇で時間の経過を表すのなら行灯の明かり、切りあいをはじめるなら柄に手をかけるアップ、切りあい中なら足元の捌きのアップや、心配そうに物陰から見るお姫様の表情、悪者が逃げこんだのなら大名屋敷の表札など。
真昼の決闘なら、12時をあらわす時計、風で飛んでいく枯れ草、窓から覗く床屋の親父、ホルスターの手をかけようとする手元のアップ。
女優が寝化粧をしているシーンなら鏡台の化粧品のアップ、寝床で化粧の終わるのを待っている男の顔、窓辺にかけてある風鈴のアップ、獅子脅しが水を落として音をだす所。
刑事の張り込みシーンなら、道路に溜まった吸殻のアップなどなど、インサートは工夫しだいでいくらでも撮れますが、主題でないだけに撮影者のセンスが問われます。

パンはしないほうが良いのですが、どうしても必要なときは、体をパンの終わりの方向にまず向けておいてから、パンはじめの方向に体をひねってから撮影を始めると、パンの終わりが綺麗に決まります。

動画の勉強なら、映画を音を消して見る事をお勧めします。
音を聞くと、ついつい内容に引き込まれてカット割を見忘れてします。
北野監督の「HANABI」は、ラストカット前までパンもズームなくフォローすらありません。
ラストカットだけは、海にパンして終わり、パンに重い意味を込めています。
シンプルな内容なので、日本語が分からなくても映像だけでも理解できる作品なので、海外の玄人に好評を博したのでしょう。

照明

何とか動画が撮れるようになったら、照明を考えましょう。
基本はスチールと同じですが、ニュース取材の場合は原則1灯しか使えないのと、相手が常に動いているのであまり細かい証明が出来ないことが多いです。

プレーンライト 人物照明の基本は、クロス・ミディアム。
正面に向いた人物を正面からライトを当てたのでは、卵の目鼻と言うか、のっぺらぼうのような無表情の顔になってしまいます。
正面に向いた顔の上下方向の45°、左右方向の45°からライトを当てると鼻の横に逆三角形に光が当たります。
これを、クロス・ミディアムとか、プレーンライトとか、レンブラントの絵に良く出てくるのでレンブラントライトとか言います。
やや影がキツイ場合は、光の反対側からレフ板で反射させてやればちょうど良くなります。

サイドライト 男性の場合なら真横から光を当てるサイドライト。
ま横から光を当てますが、そのままではコントラストが付きすぎるので、反対側からレフ板を当てるほうがよいでしょう。

リムライト 斜め後ろから当てるリムライトは、そのままでは顔が真っ暗になるので、正面からレフ板で反射させてやると髪や頬にエッジが立って綺麗に写ります。
野球選手などひさしのある帽子をかぶっている人などの場合は、順光で撮るとひさしが顔に影を落とすので、逆光にしてレフ板で顔を照らしてやれば、綺麗に撮れます。
この写真でも、若干現れていますが、気をつけないとレンズに光が入ってフレアーを引き起こします。

リングライト 女性の場合は、真後ろからライトを当てれば、髪がリング状に輝くリングライトになります。
もちろん顔が真っ黒になるので、レフ板で顔を明るくしてやります。

このほか、秋山庄太郎が麻丘ルリ子を撮る時に使った正面真上から光を当てるトップライトや、怪談話などに使う正面真下当てるフットライトなどもあります。
上記の照明は1灯のみの場合の基本を示したもので、スタジオなどで機材が豊富にある場合は、メインライト、補助光、アクセントライトなどを、組み合わせて使用します。
参考に示した写真は、光が分かりやすいようにあえて室内の照明を落としていますし、背景などは考慮していませんし、ある程度欠点も表現しています。

逆光 料理を撮る時は、斜め後ろから光を当てます。こうすると湯気が立っている場合には綺麗に写るし、無くても場合によっては料理の素材が透き通ったりして美味しく見えます。
必要に応じて手前に白レフなどを当てると手前が暗くなるのを防げます。作例は太陽の光を使って手前に白レフを当てています。

順光 順光の場合も撮ってみました。比較してみてください。

音声

パンやズームが増える原因の一つが、音にあります。
昔の8mmや16mmは、ゼンマイ式で長いカットが撮れなかった事、ズームレンズが無かった事などもありますが、音も撮れなかったのでパンやズームなど「振り回す」絵はほとんどありませんでした。
昭和40年代末頃、ワイドニュースがはじまり、シングル録音カメラが使われ始めると、音に映像が合わせることになり、酷い映像が増え始めました。
民生用カメラには、オプションで集音タイプのマイクが売られています。
確かに、静かな場所で近寄って音が取れない場合は有効ですが、一般的に雑音がほとんど無い場所を都会で探すのは難しいのが現状です。
このような場所で集音マイクを使うと、被写体後方の雑音を拾う事が多く、普通の無指向性マイクで録音するより悪い音になる事も多いのです。
音は、近づけて撮るのが原則で、横着してカメラの上に付けた集音マイクでは無理です。
音はちゃんと入っていて当たり前で、上手く撮れていないとヘタクソと言われますが、ちゃんと音を録ることはきちんと映像を撮る以上に難しいのです。
プロのカメラクルーには、カメラマン、撮影助手、照明係り、録音担当の4人いる場合が正規料金です。
撮影条件によって、照明や録音をカメラ助手が兼務します。
アマチュアが、一人ですべて兼務してプロをしのぐのは至難の業なのです。

色温度
スチール写真のデイライトタイプのフィルムは、晴天の屋外6000°K程度にあわせている。
ところがENGは、映画用ムービーカメラを基本にしているので、3200°Kのハリウッドのスタジオを基準にしている。
かつての映画用フィルムは、3400°KのAタイプと3200°KのBタイプとあったが今はBタイプが主流である。
蝋燭がガスバーナーの炎は、燃え盛っている中心部が青く温度の低い周辺部分は赤くなるように、色温度は高くなるほど青く、低くなると赤くなる。
♪夕日赤く、地平の果て・・・♪と歌われているように、朝日夕日は4500°Kと昼間より低い。
反対に、曇りは6800°K〜10000°Kと高くなる。
家庭用電球2800°K
スタジオ用タングステン照明3200°K
一般蛍光灯3800°K〜5500°K(写真用を除く)
LEDライト3200°K〜5600°K(変更可能)
朝、夕4500°K
晴天5600°K〜6000°K
曇り6800°K〜10000°K
フィルムの場合は、KODAKのラッテンフィルターの色温度変換フィルターで色調整をしていた。
タングステン用フィルムを屋外で使う場合は、アンバー系(ウィスキー色?)LB85や85Bを使っていたし、デーライト用フィルムをタングステン照明で使う場合はLB12Aの青色系のフィルターを使っていた。
しかし、最近のデジタルカメラでは白い紙に向けてボタンを押せば色温度は合うし、民生用カメラでは自動的に調整してくれるので、色温度を知らなくてもよくなっている。
ただ、昼間の色温度に合わせて夕日を撮ると、より赤く写るし、タングステン照明に合わせておいて昼間にやや露出を控えめにして撮影すると擬似夜景が撮れる。
5600k.jpg 晴天14時頃 5600°Kで撮影
3200k.jpg カメラを3200°Kに設定して撮影。相対的に色温度が上がって青みを帯びている。
10000k.jpg カメラを10000°Kに設定して撮影。相対的に色温度が下がって赤みを帯びている。

被写界深度
35mm(2mm4X36mm)のスチールカメラに比べ2/3インチのENGはハーフ版の1/4の画面サイズしかなく、被写界深度が深くなります。
shindo1.jpg 被写界深度は、焦点距離が長いほど、絞りを開けるほど、浅くなります。50mm F1.4で撮影
shindo2.jpg 被写界深度は、焦点距離が短いほど、絞りを絞るほど、深くくなります。50mm F11で撮影

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